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看護職の倫理綱領とは?2021年改定の16項目を事例でわかりやすく解説
「看護職の倫理綱領」と聞くと、「内容が難しくてとっつきにくい」「理想論ばかりで、現場でどう活かせばいいかわからない」と感じていませんか。特に2021年に改定され、その変更点に戸惑っている方もいるかもしれません。
しかし、看護職の倫理綱領は、日々のケアで迷った時の指標となり、あなたの看護観を支える強力な味方になります。
記事を読み終える頃には、倫理綱領への苦手意識がなくなり、明日からの実践や転職活動にも自信を持って活かせるはずです。ぜひ、読み進めてみてください。
看護職の倫理綱領とは?
「看護職の倫理綱領」とは、日本看護協会が定める看護師の行動指針です。患者さん一人ひとりに質の高いケアを提供するための、倫理的な判断基準や守るべき規範が具体的に示されています。
この綱領は、時代の変化に合わせて何度もアップデートされてきました。1988年に初版が作られ、社会や医療の状況に応じて内容を見直し、2021年に現在の最新版が公表されています。
専門職として質の高い看護を実践していくうえで、常に意識し、自身の行動を振り返るための重要な考え方の土台となるものです。
【条文・事例つき】看護職の倫理綱領16項目をわかりやすく解説
2021年に改定された「看護職の倫理綱領」には、16項目の行動指針が示されています。
一つひとつの条文は、日々の看護で私たちが大切にすべき考え方の土台となるものです。
ここでは、各項目が現場でどう活きるのか、具体的な事例や現役看護師のリアルな声を交えながら、わかりやすく解説していきます。
1.人間の生命・尊厳・権利を尊重すること
ここでは、看護の基本中の基本、「どんな人の命も、その人らしさも、権利も、すべて大切にしよう」という考え方を示しています。
国籍や性別、経済的な状況などに関わらず、すべての人が持つ人間としての尊厳を守ることが、看護の原点です。
【事例】
意識障害のある患者さんの排泄ケアの時、カーテン隔離して業務にあたっていたとしても、スタッフ間の会話は外に漏れ出ます。
患者さんの情報交換は最小限の音量として配慮することで、その方のプライバシーや尊厳を守ることができます。
【体験談】
理念的で美しい内容ですが、日々の業務に追われていると「そんな理想論……」と感じてしまうことがあるのも事実です。
これらを意識し続けることこそが、患者さんの安心感につながり、看護の質がうえがり、日々の業務の行動が変わります。
2.対象となる人々に平等な看護を提供すること
ここで言う「平等」とは、「みんなに同じケアをする」ことではありません。むしろその逆で、「一人ひとりの違いを理解し、その人に合った最適なケアを提供する」ことを意味します。
【事例】
心不全の患者さんが2人いたとします。
1人は初めて診断された方、もう1人は入退院を繰り返している方。この2人に同じパンフレットを渡して説明するだけでは不十分です。
それぞれの状況や理解度に合わせて、伝え方や内容を変える必要があります。
【体験談】
患者さんの表情や態度で、言葉にされないニーズまで感じ取って対応するのは、本当に高いスキルが必要です。
さまざまな患者さんと積極的にコミュニケーションを取るなどすると、感覚が養われていきます。
コミュニケーションのスキルアップに興味のある方は「看護におけるコミュニケーションの重要性やポイントとは?スキルアップの方法も紹介!」をぜひ、参考にしてください。

3.信頼関係に基づいた看護を実践すること
看護は、知識や技術だけで成り立つものではありません。患者さんとの信頼関係があってこそ、効果的なケアが提供できます。
そのために、十分な説明と同意(インフォームド・コンセント)を徹底し、一つひとつのケアに責任を持つ姿勢が不可欠です。
ただし、注意したいのが「個人的な関係」に発展させないことです。患者さんを思う気持ちが強くなるあまり、専門職としての適切な距離感を見失ってはいけません。
あくまでプロとして、客観的な視点を持ち続ける冷静さも求められます。誠実な対応で信頼を築きつつ、適切な関係性を保ちましょう。
【事例】
検査に向かう際は今からどんな理由で、何を行うかを患者さんに説明をし、確認と同意を得たうえで移動をすることなどが考えられるでしょう。
【体験談】
患者さんと仲良くなるのはよいことですが、「どこからがプライベートな関係なの?」と境界線に悩むことがあります。
一緒に売店に行くのはセーフ?個人的な連絡先を教えるのはアウト?など判断が難しいです。
信頼関係の基準をしっかりと確立することで、患者さんやスタッフ間のトラブルに巻き込まれなくなります。
4.人々の自己決定権を尊重し支援すること
患者さんには、自身の治療やケアについて「知る権利」と「自分で決める権利(自己決定権)」があります。
看護師の役割は、その方が最善の選択をできるよう必要な情報を提供し、何をするか決めるまでを支えることです。
【事例】
ご家族が「本人には本当の病名を伝えないでほしい」と希望しても、患者さん自身が「知りたい」と望むなら、その意思を尊重するのが基本です。
患者さんの価値観や思いを最大限に尊重し、その人らしい選択ができるようサポートします。
5.守秘義務を守り個人情報を適正に扱うこと
看護師には、法律で定められた「守秘義務」があります。業務上知り得た患者さんの病状やプライベートな情報を、正当な理由なく外部に漏らしてはいけない、という極めて重要なルールです。
たとえ名前を伏せていても、状況から個人が特定できてしまうケースは少なくありません。電子カルテの取り扱いも含め、情報管理には細心の注意が求められます。
【事例】
勤務中だけでなく、プライベートな時間で、友人との会話やSNSで、うっかり患者さんの情報を話さない。
6.対象者の安全を確保し危害から保護すること
私たちの役割は、病気やケガの治療だけでなく、患者さんをあらゆる身体的な危険や精神的な苦痛から守ることです。
これには、院内での転倒・転落防止といった物理的な安全確保はもちろん、より広い意味での保護も含まれます。
【事例】
患者さんの体に不自然なアザを見つけた場合、虐待の可能性を視野に入れなければなりません。
そのような時は、医師やソーシャルワーカーなど多職種と連携し、患者さんを保護するための介入を検討します。
虐待の事実確認ができなくても、援助の必要性を感じた場合は、さりげなく見守りや声かけを続けます。
【体験談】
患者さんが駐車場内を散歩していた時に、車止めに足を取られて転倒してしまいました。
大きなケガには至りませんでしたが、すぐに再発防止策の会議を開いたのです。
駐車場内での散歩を控えてもらい、車止めに反射板やカラーテープなどの目立つ装飾を施し、視認性を高める工夫を行いました。
7.自己の能力を把握し実施した看護に責任をもつこと
看護師は、自分が行ったケアに対して、個人として責任を負わなければなりません。
そのためには、まず「自分に何ができて、何ができないのか」という自身の能力を客観的に把握することが大前提となります。
「誰かがやってくれる」「チームだから大丈夫」ではなく、一人ひとりがプロとして自覚と責任を持つことです。
【事例】
初めて扱う医療機器や薬剤がある場合、十分に理解しないまま使用するのは無責任になります。
わからないことは先輩に聞く、手順書を再確認するなど、安全を確保したうえで業務にあたる必要があります。
知識や経験が不十分なまま自己判断で操作すると、重大なインシデントや患者さんへの危害につながるリスクがあるのです。
【体験談】
新人看護師の頃、点滴の速度変更を任された際に、操作方法を十分に確認せずに行ってしまい、医師の指示よりも速い速度で投与してしまったことがあります。
幸い、すぐに先輩が気づいて対応してくれたため大事には至りませんでしたが、「わからないことは必ず確認する」「自分の知識や経験を過信しない」ことの大切さを痛感しました。
8.継続学習によって能力の維持・向上に努めること
医療は日進月歩で、新しい治療法や薬が次々と登場します。昨日までの常識が、今日にはもう古くなっているかもしれません。
だからこそ、看護師は専門職として、常に新しい知識や技術を学び続ける責任があります。自己研鑽を続けることで、患者さんにより質の高い、根拠に基づいた看護を提供できるようになります。
【事例】
感染症対策の最新ガイドラインが発表された際、全看護師を対象に院内研修を実施しました。
研修後、現場での手指衛生や個人防護具の使い方が徹底され、院内感染の発生率が大幅に減少しました。
【体験談】
「看護師って、いくつになっても勉強していて偉いね」と言われることがありますが、それはこの綱領で「学び続けること」が義務として書かれているからなんです。
勤務終了後や休日に、院内研修やオンラインセミナーに参加するようにしています。
新しい知識を得ることで、患者さんによりよいケアを提供できる自信がつきますし、何より「自分の看護が時代遅れになっていないか」を常に確認できる安心感があります。
好きでやっているというより、プロとしての責任です。
9.多職種と協働してよりよい医療福祉を実現すること
患者さんを支えるのは、看護師だけではありません。医師や薬剤師、理学療法士など、さまざまな専門職がチームとなって関わります。
この条文は、それぞれの専門性を尊重し、協力し合うことの重要性を示しています。
お互いの専門性を理解し、円滑なコミュニケーションを図ることが、患者さんにとってよりよい医療・福祉を実現する鍵となります。
【事例】
高齢の患者さんが退院する際、院内のスタッフだけでなく、地域のケアマネジャーや訪問看護師と事前に情報を共有しておくことが大切です。
患者さんの生活状況や必要な医療・介護サービス、服薬管理の方法などを多職種で話し合い、退院前カンファレンスを実施します。
これにより、患者さんは退院後も切れ目のないサポートを受け、安心して在宅療養に移行できます。
10.質の高い看護のため行動基準を設定し実践すること
この条文は、看護の質を担保するために「行動基準」を設定し、守って行動しようという内容です。これは、個人の判断だけでなく、部署や病院といった組織単位で取り組むことが求められます。
自分たちの看護を客観的に評価し、より良くするためのルールを自ら作っていくことです。この主体的な姿勢が、看護の専門性を高めることにつながるのです。
【事例】
糖尿病患者さんのフットケアにおいて、担当者によって観察やケアの方法にばらつきがありました。
患者さんからも「人によって説明が違う」との声が上がっています。
部署内でカンファレンスを開催し、看護倫理や最新のガイドラインに基づいてフットケアの手順や観察ポイントなどを「行動基準」として明文化しました。
これにより、誰が担当しても一定水準以上のケアを提供できるようになります。
【体験談】
透析治療には、体重測定から穿刺や返血、退室まで一連の流れに対応するマニュアルが作成されています。
これは、安定した手技で事故防止にもつながる為です。
11.研究や実践を通し看護学の発展に寄与すること
看護師の役割は、目の前の患者さんにケアを提供するだけではありません。
日々の実践の中から得られた気づきや課題を「研究」という形でまとめ、専門的知識や技術の発展に貢献することも求められています。臨床での実践と、看護学を発展させる研究です。
この両輪を回していくことが、看護という専門分野を未来へつなぐための、重要な責務です。
【事例】
「この体位だと褥瘡ができやすいのでは?」という気づきから、除圧方法を工夫し、その効果をデータとして検証する。
【体験談】
日々の業務だけでも手一杯なのに、さらに研究担当を任されると、正直キャパオーバーに感じてしまうこともあります。
研究の重要性は理解していますが、現場の負担も大きいのがリアルなところです。
チームで協力し合い、日々の実践の中から小さな疑問や課題を拾い上げていくことから始めましょう。
12.看護職自身のウェルビーイング向上に努めること
質の高いケアを提供するためには、まず看護師自身が心身ともに健康であることが大前提。この条文は、自身の健康や幸福(ウェルビーイング)を大切にすることも、看護師の責任の一つであると明確に示しています。
ワークライフバランスを考え、自分に合ったストレス解消法を見つけることです。自分自身をケアすることも、プロの仕事のうちでしょう。
【事例】
熱があったり体調が悪かったりする時に無理して出勤しないことが、結果として医療ミスを予防する。
自分の体を優先してしっかり休むことが、結果的に患者さんを守ることにもつながる。
【体験談】
「看護師は自己犠牲」みたいな風潮がまだ根強いですが、この条文ができたことで、「まず自分を大事にしていいんだ」というお墨付きのようなものです。
新人看護師とベテラン看護師で価値観が異なる場合があります。この条文を守って、自分の健康を優先していきましょう。
13.品位を保持し社会からの信頼を高めること
看護師は、専門的な知識や技術だけでなく、その人柄や振る舞いも含めて、社会から信頼される存在でなければなりません。この条文は、常に「品位」を保ち、看護職全体の社会的信頼を高めるよう努めることを求めています。
白衣を着ている時だけ気をつければよい、というわけではありません。患者さんやご家族から「この人になら任せられる」と安心していただくための、土台となる大切な心構えです。
【事例】
髪型や爪、ユニフォームの清潔さを毎日チェックし、患者さんの前では必ず笑顔で挨拶をすることをルール化する。
患者さんから「看護師さんがいつも清潔で丁寧なので安心できる」との声が寄せられ、病院全体の信頼向上につながる。
14.社会正義の視点をもち責任を共有すること
看護師の視点は、病院の中だけに留まりません。人々の健康を脅かす可能性のある、あらゆる社会問題に関心を持つべきだと、示した条文です。
経済的な格差、環境問題、差別や暴力といった問題は、すべて人々の生命や健康に直結します。
私たちは、こうした問題に対して「社会正義」の考え方を持ち、よりよい社会を実現するために責任を共有する一員である、という自覚が求められます。
【事例】
地域の健康教室や環境美化活動、貧困家庭への支援活動などに看護師が積極的に参加し、社会全体の健康格差の是正に貢献する。
【体験談】
まるで「正義の味方であれ」と言われているような、スケールの大きな条文です。
実際に院外学習でも、NPO団体や社会情勢についての講演が増えています。
15.専門職組織に参画しよりよい社会づくりに貢献すること
看護師は個々の実践にとどまらず、専門職の団体(職能団体)の一員として、看護の質の向上や労働環境の改善、国の医療・福祉制度をよりよくするための活動に参加することが期待されています。
これらの取り組みに参画することは、よりよい社会づくりに貢献する、看護師の重要な役割の一つです。
「誰かがやってくれる」ではなく、自らも専門職団体の一員として、社会づくりに主体的に関わっていく姿勢が求められています。
【事例】
看護協会などの団体に所属し、活動を通じて、現場の声を政策に反映させたり、社会に向けて情報発信します。
【体験談】
日々の業務で精一杯で、政策とか制度のことまで考える余裕がない、と感じることもあります。
でも、誰かが声を上げないと現場は変わらないのも事実です。
すぐに行動できなくても、団体の活動内容をチェックしてみると、日々の看護観が変わります。
16.災害時に影響を受けた人々のために最善を尽くすこと
地震や水害といった自然災害や、新たな感染症のパンデミックなど、人々が危機的な状況に陥った時、看護師は専門職として最善を尽くす責務があります。
平時から災害のリスクを想定し、限られた資源の中で何ができるかを考えておくこと。そして、いざ災害が発生した際には、他の支援者と協力します。
被災したすべての人々の生命、健康、生活を守るために行動することが求められます。
災害看護は、もはや特別な誰かの仕事ではありません。すべての看護師が、その役割と責任を自覚しておくべき時代になっているのです。
【事例】
災害看護は、2009年度から看護基礎教育で必修化されました。卒業年度によって災害看護を体系的に学んでいない看護師もおり、知識や経験に差があるのが現状です。
未履修者を対象に災害看護の基礎知識に関する研修が院内で開かれることがあります。
また、いざという時に備え、多くの医療機関では日頃から次のような災害訓練が行われています。
- 初動訓練
- 防護訓練
- 避難誘導訓練
- 通報・連絡訓練
- 初期消火訓練
- 救命訓練
- 情報伝達訓練
- 机上訓練
これらの訓練を繰り返し行うことで、パニックになりがちな災害現場でも、冷静かつ迅速に行動できる実践力を養っているのです。
【2021年改定】看護職の倫理綱領の変更点
2021年、看護職の倫理綱領は社会の変化に合わせて大きく改善されました。
ここでは、改定で特に押さえておきたい以下の変更点をピックアップして、わかりやすく解説していきます。
- 条文の数が15項目から16項目に増加
- 看護師自身の心と体の健康が新たに追加
- 社会情勢や価値観の変化が反映
条文の数が15項目から16項目に増加
今回の改定で最も大きな変更点は、条文が15項目から16項目に増えたことです。
新たに追加された内容は、災害時の看護に関する項目となります。
これは、東日本大震災をはじめとする数々の災害経験から、看護職が果たすべき役割を明確にする必要性が高まったために盛り込まれました。災害が起こる前からリスクを減らす取り組み(防災)に関わる必要があります。
そして、災害発生時には他の支援者と協力し、被災した人々の生命や健康、生活を守るために最善を尽くすことが明記されています。
これにより、災害看護が特別な誰かの仕事ではなく、すべての看護職が意識すべき責務であることが、はっきりと示されることになりました。
看護師自身の心と体の健康が新たに追加
今回の改定では、「看護職自身のウェルビーイングの向上」という項目(第12条)が新たに追加されました。
ウェルビーイングとは、心身ともに、さらに社会的にも満たされた状態を指します。これは、「質の高い看護を提供するためには、まず看護師自身が健康で幸せでなければならない」という重要なメッセージです。
過酷な労働環境が問題視される中で、看護師が自分自身を大切にすることも、専門職としての責務であると明示されたのです。
この項目の追加は、看護師の働き方を根本から見直す、大きな転換点となりました。
社会情勢や価値観の変化が反映
今回の改定では、全体を通じて、現代の価値観に合わせた見直しがなされました。
これまでの「看護者」という言葉は、資格の有無を問わず使われてきましたが、専門職であることを明確にするため、「看護職」という表現に統一されています。
また、「患者さんの権利」や「多職種との連携」といった点についても、現代的な視点から表現が見直されました。
このように、細部に至るまで社会の変化や新しい価値観を反映していることが、2021年改定版の大きな特徴です。
臨床で迷わない!倫理的ジレンマを解決する5ステップ
倫理綱領を学んでも、いざ現場で「何が正解なの…」と答えの出ない問題に悩むことは少なくありません。大切なのは、問題を整理し、解決策を探るための「考え方の手順」を持つことです。
ここでは、その具体的な5つのステップをご紹介します。
- 「何が問題?」を言語化にしてみる
- 判断材料をしっかり集める
- 倫理綱領をヒントに解決策を出す
- 一人で抱えずチームで話し合って決める
- 「やってみてどうだった?」を次に活かす
1.「何が問題?」を言語化にしてみる
あなたが「何に」「なぜ」モヤモヤしているのかを、具体的に言葉にしてみることです。
頭の中だけで考えると、感情が先走って混乱してしまいがち。問題を客観的に見つめるために、一度書き出してみるのがおすすめです。
例えば、「延命治療を望まない患者さん」と「少しでも長く生きてほしいご家族」の間で、自分はどう関わるべきかわからない、といった具合です。
このように「誰」と「誰」の「何」が対立しているのかを明確にするだけで、気持ちが少し整理され、冷静に状況を分析するスタートラインに立つことができます。
2.判断材料をしっかり集める
思い込みや断片的な情報だけで判断しないよう、関連する情報を多角的に集めましょう。
これは、客観的な事実に基づいて考えるためのステップになります。集めるべき情報は、主に以下の3つです。
患者さん自身のこと | ・診断名や予後 ・意思表示の有無 ・生活状況 ・社会的背景 など |
ご家族のこと | ・キーパーソンは誰か ・家族の思い ・価値観 ・家族内の役割分担や意見調整 など |
医療チームの情報 | ・医師や他職種の意見 ・チーム内の情報共有 ・多職種連携の状況 など |
特に大切なのが、患者さん本人の意向です。直接話せなくても、過去の会話やその人らしさから、本心を探る努力をします。
詳しい情報収集の方法を知りたい方は「看護師が情報収集をする6つのコツと優先順位!基本項目や効率的な進め方も紹介」をご覧ください。

3.倫理綱領をヒントに解決策を出す
情報が集まったら、それを「看護職の倫理綱領」という物差しに当てはめて、解決策の選択肢をいくつか洗い出してみましょう。
例えば、延命治療のケースなら、倫理綱領の4.「自己決定の尊重」を考えれば、「患者さんの意思を優先する」という選択肢が浮かびます。
一方で、ご家族の思いも無視はできません。
このように、どの綱領や原則が関係しているかを整理することで、複数の選択肢を論理的に考えられるようになります。
一つの正解を探すのではなく、まずは考えられる選択肢を複数出すことが、視野を広げるためのコツです。
患者さんの自己決定に必要なニーズについて知りたい方は「【例あり】患者のニーズに応える看護とは?最適な医療選択のポイント」の記事をご覧ください。

4.一人で抱えずチームで話し合って決める
倫理的な問題で最も大切なのは、「一人で決めない、抱え込まない」ということです。
前のステップで出した選択肢を、カンファレンスなどの場でチームに提示し、みんなで議論しましょう。
医師やリハビリスタッフ、ソーシャルワーカーなど、それぞれの専門的な視点からの意見は、自分一人では気づけなかった気づきがあります。
さまざまな意見を出し合ったうえで、チームとして「現時点での最善策」を導き出します。
看護師の役割や重要性について詳しく知りたい方は「看護師にしかできないこととは?医療現場で求められる役割や重要性について」にぜひご一読ください。

5.「やってみてどうだった?」を次に活かす
そのケアを行った結果、患者さんやご家族の状態や気持ちにどんな変化があったのかを、必ず評価し、振り返りましょう。
- 患者さんの苦痛は和らいだか?
- ご家族は納得してくれたか?
- 私たちの関わりに問題はなかったか?
この振り返り(リフレクション)をチームで共有することが、学びになります。
今回の経験がチーム全体の倫理観を育て、次に同じような壁にぶつかった時の貴重な財産となります。
倫理綱領とあわせて理解したい看護倫理の4つの基本原則
倫理綱領が日々の行動を示す指標なら、これからご紹介する4つの基本原則は、その根底にある「考え方の土台」です。
臨床での複雑な判断に迷った時、この4つの視点に立ち返ることで、問題の本質が見えやすくなります。
- 自律尊重の原則
- 無危害の原則
- 善行の原則
- 正義の原則
倫理綱領とセットで理解しておきましょう。
患者の意思決定を支える「自律尊重の原則」
自律尊重の原則とは、患者さん本人の気持ちを一番に尊重しようという考え方です。
たとえ医療者側が「こうした方がよい」と考えても、患者さん自身の価値観や意思に反したケアを強制することはできません。
看護職の役割は、治療法の選択肢やそのメリット・デメリットをわかりやすく説明し、患者さんが自分自身で納得して道を選べるようにサポートすることです。
たとえば、AとBの治療法で迷っている場合には、それぞれの治療法について、公平かつ十分な情報を提供し、本人が納得して選択できるよう十分な時間と環境を整えます。
患者さんを「保護されるべき存在」としてではなく、「一人の自律した人間」として尊重します。この姿勢が、信頼関係の基本です。
患者に危害を加えない「無危害の原則」
無危害の原則とは、医療安全の基本として、患者さんに決して危害を加えないようにするという考え方です。
どんなによいケアを目指していても、その過程で患者さんに危害が及んでしまっては本末転倒です。
転倒・転落を防ぐためにベッド周りの環境を整える、薬剤の誤投与を防ぐためにダブルチェックを徹底する、といった行動がこれにあたります。
治療には常にリスクが伴いますが、そのリスクを最小限に抑えるための最大限の注意と努力が求められます。
「何かよいことをする」以前に、「悪いことを起こさない」という意識を持ちましょう。
患者にとって最善を尽くす「善行の原則」
善行の原則とは、単に危害を避けるだけでなく、患者さんにとって最も良いことを積極的に行おうという考え方です。
患者さんの苦痛を取り除き、利益が最大になるように最善を尽くすことが求められます。
たとえば、痛みで苦しんでいる患者さんに対して以下の対応を行います。
- 安楽な体位を工夫
- マッサージを施行
- 好きな音楽を聴くことを提案
鎮痛剤を使うだけでなくさまざまな角度からケアするなど、あらゆる方法で患者さんのQOL(生活の質)を高めようと行動することが「善行」です。
現状維持ではなく、よりよい状態を目指してプラスアルファのケアを考えるという積極的な姿勢が、患者さんの回復や安心感につながっていきます。
看護師のケアの重要性を知りたい方は「ケアの重要性とは?看護師の役割とスキルを紹介」の記事をご覧ください。

公平・公正なケアを提供する「正義の原則」
正義の原則とは、誰に対しても公平・公正なケアを提供しようという考え方です。
特に、ベッドの数や高価な医療機器、医療者の時間といった限りある医療資源を、どう分配するべきかという場面で重要になります。
「社会的地位が高いから」「個人的に親しいから」といった理由で、特定の患者さんを優先することは許されません。
災害時のトリアージのように、医学的な緊急度や必要性に基づいて、誰にどのようなケアを提供するかを判断する必要があります。
個人的な感情や社会的な背景に流されることなく、誰に対してもフェアであることです。
看護職の倫理綱領に関するよくある質問
ここでは、看護職の倫理綱領について、よくある質問を解説します。
看護綱領はなぜ大切なのでしょうか?
看護師自身を守り、患者さんとの信頼関係を築きながら質の高いケアを提供するために必要だからです。
看護倫理は次のような目的で求められています。
- 専門職としての信頼と責任の証
- 多様な価値観や社会変化への対応
- 患者さんの権利・尊厳を守るため
- チーム医療や社会的責任のため
看護職が専門職としてより質の高い看護を提供するためには、深い知識と確実な看護技術だけでなく、高い倫理性が重要です。
看護綱領でおすすめの本ありますか?
まずは日本看護協会が発行している公式の資料に目を通すことをお勧めします。そのうえで、以下の本を選ぶと良いでしょう。
名称 | 出版社 | 内容 |
---|---|---|
看護職の倫理綱領(公式全文) | 日本看護協会 | 倫理綱領の原文。看護師としての行動指針を確認できる公式資料 |
よくわかる看護職の倫理綱領 第3版 | 照林社 | イラストや事例が豊富で、学生や初学者にも分かりやすい。2021年改訂に対応。 |
まとめ|看護職の倫理綱領を理解し日々の実践と学びに活かそう
看護職の倫理綱領は、日々のケアで迷った時の「指標」であり、質の高い看護を実現するための大切な土台です。
16項目すべてを常に完璧に実践するのは、忙しい臨床現場では難しいと感じるかもしれません。「理想はわかるけど、現実は……」と、理想と現実のギャップに悩むこともあるでしょう。
しかし大切なのは、完璧であることよりも、この綱領を常に意識し、自分の行動を振り返る姿勢を持つことです。
その意識が、患者さんとの信頼関係を深め、何よりあなた自身の看護を守る力になります。
「これでいいのかな?」とふと立ち止まった時や倫理的なジレンマに直面して答えが見えない時、そして転職活動で自分の看護観を言葉にしたい時があるでしょう。
そんな時は、ぜひこの倫理綱領に立ち返ってみてください。そこには、あなたの判断を支え、進むべき方向を照らしてくれるヒントがきっとあるはずです。
この記事が、あなたの看護師としての素晴らしい歩みを、ほんの少しでも支えることができれば幸いです。
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