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「一人で抱え込まないために」仕事と介護の両立に必要な支援制度とポイントを紹介
現代の日本は、少子高齢化と働き手不足が社会問題となっています。これに伴い、仕事をしながら介護する人口が増加しています。しかし、働きながら介護するには余りにも負担が大きく、両立させることは安易ではありません。
現在も、仕事と介護の両立にお悩みの方は多いでしょう。
最後には、一人で抱え込まないように押さえておきたいポイントをお届けします。
仕事しながら介護する人が急増!「介護離職」とは?
介護離職とは、介護するために仕事を辞めてしまうことを指します。
ここでは、「介護離職」の実態についてご紹介します。
介護負担で離職者数が10年で約2倍に増加
家族などの介護が理由で離職する、いわゆる「介護離職」の人数が10年間で約2倍に増加しています。
介護離職者数の推移を見てみると、2007年は約5万人、2017年は9万人を超えています。
少子高齢化が進み、要介護者が増加している現在の日本は、今後この数字がさらに増えてしまうと予測されているのです。
出典:https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/hoiku/20190109/190109hoikukoyo01.pdf
仕事をしながら介護している人が増えている
介護離職者が増えるのと同時に、仕事をしながら介護している人も年々増加しています。
その理由は、家庭内で介護に携われる人数が不足しているということにあります。
生涯未婚率や共働き世帯比率が年々上昇しており「家庭内で介護に携われる人が自分しかいない」「働きながら介護するしかない」というケースが増加していると推測されます。
正社員での勤務は難しい
介護の負担は大きく、長時間労働が求められる正社員との両立が難しいことも、介護離職が増加している理由の一つ
しかし、企業の多くは、正社員で勤務する場合は長時間労働の規定を定めおり、短時間制勤務となると非正規労働者として働くしかない、というケースがほとんどで、短時間勤務OKの正社員制度を取り入れている企業はまだまだ少ないのが現状です。
正社員の人が家族の介護が必要となった場合、これまで通り勤務することが難しく、離職しなければならないという事態が起きているのです。
介護離職によるデメリット
家族の介護を理由に離職を選択せざる得ない方が多いですが、それにより様々なデメリットが生じます。
こちらでは、介護離職を選択することによって起こるデメリットについてご紹介します。
再就職が難しくなる
一度、離職をすることで再就職へのハードルが高くなるというデメリットが生じます。
介護生活の変化やいずれ介護に終わりがきた際は、再び就職を検討する方も多いでしょう。
一度キャリアを離れていることで再び正社員として就職することは容易ではありません。
ブランクが長くなればなるほど、再就職は難しくなります。
収入が減少し、生活水準が下がる
離職することで、世帯収入が減少します。これまでと比べて、生活水準が大幅に下がってしまいます。
親の年金やこれまでの貯蓄を切り崩して生活するということになり、節約しながら生活しなければならなくなるでしょう。
介護に対する費用面の負担は出てきますので、生活が困窮することになる可能性もあります。
日々の介護により心身へのストレスが増える
今まで仕事をしていた時間も介護をすることになり、1日の中で介護を行う時間が増加します。
自分の時間を作ることが難しく、心身のストレスが増えることが懸念されます。いくら家族とは言え、毎日介護をするとなると精神的なストレスが蓄積されやすいものです。
身体を支える作業も多いため、腰痛や肩こりなど体力的な負担も増加してきます。
仕事と介護を両立させるための支援制度
介護離職者数が増加傾向にあることや、仕事と介護の両立の難しい現状についてご紹介しました。
こうした現状に対して、厚生労働省は、仕事と介護を両立の実現のための支援制度を推進しています。
以下の記事で、仕事と介護の両立のための制度についてご紹介します。
介護休業制度
「介護休業制度」は、労働者が対象家族を介護するための休業制度です。
対象家族1人につき、要介護状態にいたるごとに1回、通算して93日まで介護休業を取得できます。
- 対象となる家族
- 配偶者(事実婚を含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫。
- 手続き方法
- 休業開始予定日の2週間前までに、事業主に書面等で申し出ることで、この制度を利用することができます。
- 注意点
- 令和4年4月から対象となる労働者の条件が変更になりますので、詳しく見ていきましょう。
令和4年3月31日までの対象者
以下に該当する者。
- 入社1年以上であること
- 取得予定日から起算して、93日を経過する日から6か月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
令和4月からの対象者
※入社1年以上であることという条件が除かれます。
契約期間が定められているパート職員やアルバイト勤務の場合は、申出時点で条件が満たされているか確認が必要です。
介護休暇制度
- 対象家族
- 介護休業制度と同じですが、取得できる日数や取得単位が上記の制度と異なります。
- 対象者
- 1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで取得可能です。また、時間単位でも取得可能なため、通院の付き添いやケアマネージャーとの短時間打ち合わせにも利用できます。
- 手続き方法
- 書面に限られておらず、労働者の条件も対象家族を介護する者と定められており、比較的手軽に取得できます。
柔軟な働き方の制度
仕事と介護の両立のための制度には、短時間勤務等の措置が定められています。この制度は、長時間勤務だけではなく、仕事と介護の両立を実現するための柔軟な働き方の選択が可能です。
- 対象家族
- 上記の制度と同じで、介護を要する家族がいる労働者はこの制度を利用できます。
- 利用期間や回数
- 対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上と長期的です。
介護は、長期化してしまうことも少なくありません。この制度を利用することで、介護のために離職しなければならないという事態を防ぐことができ、仕事と介護の両立が実現できます。
介護休業給付金
介護休業給付金を受給するためにはいくつか条件があります。
「介護休業を開始した日より前2年間に被保険者期間が12ヶ月以上あること」や「復職を前提とした休業であること」が原則的な条件です。
給料が満額支給されるわけではありませんが、制度を活用することで費用面の負担が軽減されます。休業後は職場に復帰することができるので、離職によるリスクを負わずに済みます。
介護保険制度
介護保険料や国・自治体からの財源によって、1〜3割程度の自己負担で様々な介護サービスを受けられるようになります。
介護保険制度を利用するためには、各自治体に申請し、全7段階から介護の必要性の認定を受ける必要があります。そして、認定された要介護度に応じて受けられる介護サービスが決定されます。
仕事と介護を両立するためにも、まずは介護保険適用サービスを受けるための申請をすることが大事です。
仕事と介護を両立させるための利用できる介護保険サービス
仕事と介護を両立させるためには、介護保険サービスも活用することが大事です。
こちらでは、介護を必要とする方が利用できる介護保険サービスの例についてご紹介します。
訪問介護
自宅にホームヘルパーが訪問して介護サービスを提供してくれます。
食事や入浴、排泄など身体介助や調理・掃除・洗濯などの生活援助をサポートしてもらえるため、介護に関する負担が軽減されます。また、通院の際に介助を行う事業所もあり、仕事と介護の両立が実現しやすくなります。
ただし、ホームヘルパーが提供する介護サービスは、利用者に対する援助のみであるため、家族に対する援助行為は行えません。
通所型介護サービス
デイサービスや通所リハビリなど、施設に通いながら介護サービスを受けることも可能です。
仕事に行っている時間帯に要介護の家族を預かってもらうことができます。
他の人との交流が増えるため、利用者も孤独感が減り、身体機能の維持・向上といったメリットも得られます。
ショートステイ
数日感、施設に入居して生活をする介護サービスです。
介護老人福祉施設や特別養護老人ホームなどが短期間の入居を受け入れています。要介護者は、日常生活の支援や機能訓練などを受けることができます。
ショートステイの連日利用日数は、30日間となります。ショートステイを利用する高齢者の心身の状況や病状が悪化しているときや介護者の都合などに応じて利用可能です。
出張で家を空けなければならないときも利用できるため、仕事と介護の両立が実現しやすいでしょう。
施設・居住型介護サービス
要介護度が高くなってきた場合は、施設に入居することも検討してみましょう。
ほぼ寝たきりになった状態の家族を介護するとなると、仕事と両立することが非常に困難になります。介護をする側の肉体的・精神的なストレスも増加しますので、プロに任せることも大事な手段です。
施設に入居することによって居住費や食費などの費用が必要となりますが、仕事を辞める必要はなくなります。介護保険制度によって利用者の費用負担が軽減されます。
施設内で機能訓練や他の利用者との交流も増えるため、要介護者にとっても安心です。
福祉用具貸与・販売
車椅子や介護用ベッドなど介護に必要な用具をレンタル、購入することが可能なサービスです。
要介護者が安心・安全に日常生活が送れるようになり、家族の負担も軽減されます。福祉用具貸与や販売を利用する場合は、自己負担の割合は1割程度です。
貸予は要介護度によって支給限度額が定められており、対象品目によって費用が異なります。また、購入する場合は一旦全額支払った後に介護保険から払い戻されます。
同一年度10万円まで購入可能となっていますので、必要に応じて福祉用具のレンタルや販売を活用しましょう。
仕事と介護を両立させるためのポイント
介護は肉体的、身体的な負担が大きく、仕事との両立などできないと考えてしまいがちです。
実際に介護離職してしまうと、介護者・被介護者とともに孤立化してしまったり、経済的に困窮してしまったりと、離職以前よりも厳しい状況に陥ってしまうケースも少なくありません。
仕事と介護の両立支援制度を活用するとともに、以下の点を意識してみてください。
家族で相談し、役割を決める
要介護となった家族がいる場合、他の家族同士で相談することが大事です。
それぞれがどのような役割を担うかまで話し合えるとより良いでしょう。1人で背負ってしまうと、介護者がストレスによって倒れてしまいます。
いつ介護が始まるかは分からないので、家族が元気なうちからいざというときのために話し合っておくことをおすすめします。
介護の基本的な知識を身につける
介護に関する知識があれば、効果的かつ効率的な介護が実践できるようになります。また、活用すべき制度や頼るべき機関が判断できるようになるため、介護者のストレスが軽減されるでしょう。
要介護者の安全を守りながら介護をすることは容易ではありません。
移動させるために力任せにしてしまうと、怪我をしてしまう恐れがあります。認知症の症状がある場合は、適切な対応をしなければ要介護者を混乱させてしまい、関係性が悪化してしまいます。
介護を少しでも楽にするために、基本的な知識を身につけることが大事です。
介護保険の申請は早めに
介護の長期化も踏まえ、介護保険の申請は早めに行いましょう。
介護が長期化してしまうと、ますます仕事と介護の両立が難しくなってしまいます。 仕事と介護を両立するためには、備えが必要です。
早めに手続きを済ませておき、いざ必要となったときに慌てる必要がないように備えておきましょう。
勤務先の介護支援制度を確認
上記にある支援制度はもちろんですが、職場によって独自の介護支援制度を設けている場合があるので、事業主に確認してみましょう
介護離職は、働き手を失ってしまうので、事業所にとっても大きな痛手です。独自の取り組みを定めている場合は、それを活用するほかありません。
当然の権利ですので、両立を実現するためにも、勤務先の支援方法の有無を確認してみてください。
ケアマネージャーに相談し一人で抱え込まない
介護していく中で、不安視される問題が一人で悩みを抱え込んでしまうことです。
ケアマネージャーという職業は、要介護者および介護する人の希望を汲み取り、それに適したケアプランを作成します。介護する人の仕事の状況などにも応じて、介護保険サービスを変更することもでき、悩みに応じてプランニングします。ケアマネージャーに直接話せるので、一人で抱え込んでしまうということを回避できます。
また、電話やメールでも対応している場合も多く、必要に応じて相談することが可能です。一人で介護問題を抱え込んでは、介護する人の生活まで脅かされてしまいます。
- 家族の介護に悩んでいる方
- 仕事との両立に悩んでいる方
一人で抱え込まず、相談してみましょう!
もしも、職場とトラブルになった時は?
仕事と介護を両立させるために職場に相談をしたとしても、希望通りに行かないこともあるでしょう。
万が一、職場とトラブルになった場合は以下のような制度を活用することをおすすめします。
紛争解決援助制度を利用する
事業主と労働者との間で育児や介護に関してトラブルが起きた場合に、都道府県労働局が問題解決のために援助を行う制度です。
各自治体の労働局が、公正かつ中立な立場からトラブルを解決するために専門的な助言や指導を行います。
トラブルに至っていなくても、職場の対応が適切か分からない場合や説明に納得ができない場合も問い合わせに対応してくれます。
費用は無料となっており、時間や費用負担がかかる裁判と比べても手続きが簡単です。関係者以外に内容は公言されないため、プライバシーの面でも安心して利用できます。
職場の対応に納得できないと感じた場合は、紛争解決援助制度を活用して仕事と介護の両立を目指してみましょう。
雇用保険の失業給付金を受給する
もしも、どうしても離職しなければならなくなった場合は雇用保険の失業給付金を受給するようにしましょう。
離職後の生活費を確保しなければなりません。
職場から離職届を受け取ったら、すぐにハローワークへ出向き失業給付金の手続きを行います。会社都合または自己都合というように離職理由によって受給スタート時期が変わります。
ただし、自己都合の場合でも「介護が必要になったため」というような正当な理由であれば、会社都合と同様の待機機関が定められます。
1週間程度で給付金を受給できるようになるため、離職後の生活はしばらく安心できるでしょう。受給期間中に介護と両立できる新たな職場を見つけていきましょう。
職場での積極的な支援制度の活用やサポートが重要
仕事と介護、両立させたいけど難しく、離職してしまう方も増加しています。また、介護していると正社員での勤務が難しいというのが現状です。
ひとたび介護離職してしまうと、自分自身の生活も不安定になり、介護の負担がさらに大きくなってしまいます。一人で抱え込まず、介護による負担を軽減するためにも、厚生労働省が推進している支援制度を大いに活用しましょう。
介護のために休業や休暇を取り、柔軟に働き方を変えることは、仕事と介護を両立させるために大事な選択です。また、企業側も従業員の負担を軽減するために、積極的に支援制度を取り込んでいかなければなりません。
今回ご紹介した、支援制度を含め、介護する方の負担を軽減できるサポートが多くの職場で必要です。