ジャンル別記事
【プライバシー保護】介護スタッフに求められる高齢者の尊厳を保つ方法とは?
介護現場で働いていると、利用者のプライバシー問題に遭遇し、悩むことも少なくないでしょう。
日々の業務を行うなかで、気付かないうちに相手のプライバシーを侵害している可能性もあります。完全にプライバシーを守るということが難しい部分もありますが、利用者が快適に過ごせるためには配慮が必要です。
利用者のプライバシーを守るためには、どのような部分に配慮して、介護にあたるべきなのでしょうか?
利用者のプライバシーを守るために配慮する部分や、介護にあたる際に気をつけることを事例を交えて解説します。 ぜひ最後までご覧ください。
介護現場におけるプライバシー保護マニュアルとは
各事業所では、プライバシー保護マニュアルが用意されています。
ここでは、介護現場におけるプライバシーマニュアルの概要を紹介します。
尊厳の保持と自立支援のために取り組まれている
介護保険法第1条では、利用者の尊厳の保持や自立支援の取り組みを行うよう決められています。
第一条
この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。
参照: e-GOV法令検索
プライバシー保護マニュアルは、利用者の尊厳や自立支援を目的に存在しています。
個人情報の保護も含まれる
プライバシー保護マニュアルには、個人情報の保護も含まれます。事業所では利用者の氏名や住所、電話番号などの個人情報を取り扱います。個人情報が漏洩すると最悪の場合、利用者の生命を脅かす状況に発展するケースも考えられるでしょう。そのため事業所では、個人情報を徹底的に保護する必要があるのです。
プライバシー保護マニュアルに個人情報の保護方法を記載し、職員に共有することが大切です。
介護サービスによってルールが異なる
プライバシー保護マニュアルは各施設によって内容が異なります。特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの施設介護と、デイサービスや訪問介護の居宅介護では運営基準やルールが変わるからです。
施設では共有スペースが多いため、個人のプライバシーを保護することが困難です。そのため施設介護のプライバシー保護マニュアルには、個人のプライバシー空間の保護を明記する必要があります。
家族との関係におけるプライバシー保護が重視されています。
介護事業所で取り組むプライバシー保護の例
ここではプライバシー保護の例を状況別に紹介します。
介護現場でプライバシー保護に取り組む際の参考にしてみてください。
パスワード管理
事業所内でのパスワード管理には気をつけましょう。事業所では、利用者の栄養面や医療面に関する情報を取り扱っています。
パスワードや個人情報の漏洩は事業所の信頼に影響するだけでなく、法的責任を問われる場合も高いです。定期的なパスワード変更やツールを活用するなどして、安全に保管する必要があります。
マニュアルを活用してパスワードの保管方法や、機器の持ち出しルールは徹底しておくことも大切です。
食事
食事の時間は高齢者のQOLに大きく影響します。高齢になると旅行や買い物に気軽に出掛けられなくなるので、食事を楽しみにしている方は多いです。そのため食事はプライバシーに配慮しつつ、利用者を尊重しましょう。食事時間にゆとりをもたせたり、食堂の雰囲気を季節を感じられるように演出したりする必要があります。
また事業所は、食事データの漏洩を防がなくてはいけません。食事は利用者の健康状態や嗜好、アレルギーを反映する個人情報です。
入浴
入浴は極めてプライベートな空間なので、細心の注意を払う必要があります。着脱の際は露出を避けるために、身体をバスタオルで保護しましょう。
入浴後は速やかに着替えを実施し、露出をする時間を限りなく少なくしてください。タオルで覆わなかったり脱いだ服をそのままにしておいたりすることは、プライバシーの侵害にあたります。
利用者の尊厳に配慮して安全に入浴を実施しましょう。
排泄
排泄は利用者の健康をチェックするうえで重要な情報です。プライバシーに配慮しつつ、適切に対応しなくてはいけません。
たとえばポータブルトイレを利用する方がいる場合は、他者から見えないようにパーテーションを使用しましょう。おむつ交換時もベッドのカーテンや居室の扉を閉めて対応してください。
利用者との会話
利用者と会話をしているとつい盛り上がってしまい、うっかり個人情報を話してしまうことがあります。利用者と会話をする際は、他人の個人情報を持ち込んで話さないように意識することが大切です。また執拗に個人情報を聞き出すのも、プライバシーの侵害にあたります。
職員間の引き継ぎ
利用者のプライバシーにかかわる会話をする際は、アルファベットや記号、専門用語を用いて話しましょう。ほかの利用者に聞かれても、情報を特定できないような引き継ぎ方が大切です。
また利用者に関する憶測の話や批判的な発言は、プライバシー侵害にあたる可能性があります。職員間で会話をする際は注意してください。
介護記録
介護記録を事業所に関係のない第三者が閲覧することは、プライバシー侵害に該当する可能性があります。そのため、厳重に保護して管理する必要があります。申し送り帳を無造作におくのは禁止したり、介護記録を確認できるスタッフを限定したりしましょう。
介護記録の保存方法を徹底する教育体制を整えることも大切です。
施設内の掲示物
施設内で利用者の情報を掲示する場合は注意する必要があります。利用者やその家族が写った写真を、同意を得ずに掲示・投稿するとプライバシーの侵害にあたります。
近年では、インターネット上でも利用者の情報を掲示する事業所が増えました。インターネットやSNSへの掲示や投稿は、具体的な規則が明示されていません。自己判断で投稿してしまうと、個人情報保護法に違反する事態にも発展します。
利用者の情報を投稿する際は、上長に確認してから行いましょう。
プライバシー保護しながら介護をするうえで気をつけること
利用者のプライバシーを保護しながら介護をするには以下の内容が大切です。
- 介護を受ける立場になって考える
- 情報収集の目的を伝えて質問をする
- 立ち入りすぎたヒアリングは行わない
- 利用者個人の持ち物を確認する際は本人に了承を得る
- SNSやインターネットの取り扱いに注意する
- 職員のプライバシーを守ることで働きやすい現場となる
具体的に解説します。
介護を受ける立場になって考える
プライバシーを保護しながら業務にあたるには、介護を受ける立場になることが大切です。介護度が上がるにつれて、自分の意思を伝えることが難しくなっていきます。
そのため、ついプライバシーを無視したようなケアを実行してしまいがちです。介護職は利用者が「何をしたら不快に感じるのか」「どうしてほしいのか」を想像する必要があります。
「自分が介護を受ける側だったら」と置き換えると、気をつけなければいけないことに気付けます。
情報収集の目的を伝えて質問をする
介護サービスを提供するにあたり、情報収集のため利用者にさまざまな質問をします。介護職がヒヤリングや情報の利用目的を伝えずに質問をすると、利用者は心を閉ざしてしまう恐れがあります。質問の内容によっては不快に感じる方もいるので、目的を伝えてから質問をするようにしましょう。
利用者との信頼関係を構築するうえで、質問の目的を提示することは大切です。
立ち入りすぎたヒアリングは行わない
ヒアリングをする意図を伝えて承諾を得ても、過度に干渉するような質問をするとプライバシー侵害にあたります。業務とはいえ、個人の尊厳に立ち入らないように配慮しなければなりません。どうしても個人情報に触れるヒヤリングが必要な場合は、重要性を理解してもらうように説明します。
理由を丁寧に伝え、あくまでも必要な情報を行うためのヒヤリングであることを理解してもらいます。
利用者個人の持ち物を確認する際は本人に了承を得る
介護現場では、利用者の持ち物を介護職員が確認する場面があります。本人の持ち物を確認する際は、必ず了承を得てから行うようにしましょう。
関係性が構築されている方でも、了承を得てから荷物チェックをしてください。
SNSやインターネットの取り扱いに注意する
介護職員は、SNSやインターネットの取り扱いにも細心の注意が必要です。自身のSNSで利用者に関する内容を発信することは、鍵アカウントであってもやってはいけません。
また、施設内のパソコンやタブレットから情報が漏れないように対策を取っておきましょう。一度拡散してしまった情報は、削除することが不可能に近いです。
職員のプライバシーを守ることで働きやすい現場となる
介護現場では、職員のプライバシーを保護することも重要です。介護職員に定められている守秘義務は、職員一人ひとりの情報にも適応されています。職員の噂話や確証のない情報を流す行為は、プライバシーの侵害となる行動です。
一緒に働く仲間の個人情報や尊厳も尊重しながら仕事をすることを意識しましょう。
【事例】介護現場でプライバシーを配慮すべき場面
介護現場で利用者のプライバシーを配慮すべき場面は、次の通りです。
入浴介助と排泄介助
特に、入浴介助と排泄介助が重要です。
入浴と排泄は、他者に身体を見られるという恥ずかしさや気まずさを感じやすい行為です。この業務を行う際には、利用者がプライバシーを侵害されたと、不快に思わないためにはどうすればいいのかを考えなければなりません。
入浴介助
極力肌が露出しないようにバスタオルで隠したり、自分でできることは利用者本人に行ってもらうようにしましょう。
排泄介助
扉を閉めるだけでなく、臭いや衛生面も考慮して、事前に対策を取っておくことが大事です。
利用者との会話
介護施設はアットホームな場所であるため、利用者と親密になりやすいです。しかし、他の利用者の情報を誰かに話すことはプライバシーの侵害となってしまいます。
心配な気持ちから、「あの利用者さんの体調はどうなの?」と聞かれることもあるかもしれませんが、無許可で言い伝えることはできません。
利用者と会話をする際には、内容に気をつける必要があります!
職員間の引き継ぎ
介護職員間で利用者に関する情報を引き継ぎする際も、利用者のプライバシーを侵害しないように配慮しましょう。日常的に職員間で引き継ぎが行われます。
夜勤スタッフから日勤スタッフへ、また前日休日であった職員に対する職員に対しての引き継ぎなど利用者の生活を守るために必要な業務です。しかし、引き継ぎ内容として利用者のプライバシーに関する情報も多々あります。
また、職員同士がヒソヒソ話をしていると、「自分のことを言われているのでは」と気にする方もいます。
引き継ぎを行う場所や方法など利用者のプライバシーを守るように職員全体でルールを共有することが大事です。
施設内の掲示物
レクリエーションの時間や日頃の様子を写真で取ることも多くあるでしょう。可愛く飾り付けて施設の壁面に飾ることもありますが、なかには飾って欲しくない人もいるかもしれません。
他の人の目に入るものとなりますので、気持ちを考慮して掲示するようにしましょう。
介護記録の記述
介護記録は、日付や行動内容などを詳細に記録するため、一歩間違えるとプライバシーを損害してしまう恐れがあります。
他者に内容を見られないような場所に保管し、本人が不快感を感じないような書き方で記録しなければなりません。
万が一、情報が漏洩すると上記の各制度に基づいて罰則の対象となってしまう恐れもあるため、職場全体で注意しておきましょう。
利用者の尊厳が守られた介護サービスを提供しなければならない
介護現場では、業務の内容や施設のルールによって、利用者のプライバシーを完全に守ることができないという現状があります。
複数人で生活をしていくため、どうしても効率を重視して介助が行われることが多いです。しかし、利用者の尊厳が守られた介護サービスの提供が求められます。
特に、入浴介助や排泄介助、利用者との会話の内容、施設内の掲示物や介護記録は注意をして取り組みましょう。インターネットやSNSが発展している時代において、プライバシー保護に関する法規制の知識を深めておくことも大切です。
一歩間違えてしまうと、利用者のプライバシーを侵害してしまう恐れがあります。業務上難しい部分もありますが、介護を受ける立場になって考えることで適切な行動に気付くことができます。
さらに、プライバシー保護は職員個人にも適応されるべきことです。介護現場では、利用者や一緒に働く仲間の尊厳を尊重した行動が求められます。