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介護観とは何か?【初めての方向け基礎ガイド】
あなたは介護業界で働くにあたり、自身の「介護観」をイメージできていますか?
介護観は就職時の面接でも聞かれることが多いですが、いざ問われると答えられないという方も多いのではないでしょうか。また、長い職業人生の中で自分が苦しいときや困難に出合ったとき、「どうして介護の道を選んだのだろう?」と迷うこともきっとあるでしょう。
そのようなとき、自身の介護観を思い出すことで、介護職としての自分の原点を振り返ることができると同時に、苦しい時期を乗り越える心の支えにもなるはずです。
介護とは
介護観について触れる前に、そもそも介護とは何か、介護士の役割を含めて改めて確認しておきましょう。
介護の仕事
もともと介護では身体的なサポートがメインでしたが、近年では必要に応じて精神的なサポートも大切な目的の一つであると考えられています。
日本においては、介護が必要になった高齢者を社会全体で支えるしくみである介護保険制度が存在します。
介護保険制度の基本的な考え方として下記の3つの基本方針が定められています。
- 自立支援
- 利用者本位
- 社会保険方式
自立支援
生活全般をサポートする単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするだけではなく、高齢者が自立できるよう支援すること。
利用者本位
利用者の選択により、保険医療サービスや福祉サービスを総合的に受けられること。
社会保険方式
給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用すること。また、介護と似ている言葉に「介助」があります。
食事介助や入浴介助、排泄介助など、日常生活を送るうえで必要な動作のサポートをすることを指します。つまり、介助は、介護を実現するための手段の一つであると考えられているのです。
介護士の役割
で、介護職員、介護スタッフなどと呼ばれることもあります。
介護士という名称は特定の資格を指した言葉ではありません。それに対して「介護福祉士」は、同じ介護の仕事に従事している人の中でも、介護福祉士国家試験に合格した人だけが名乗ることができます。
一般的に介護士は、介護施設などを利用している高齢者や介護を必要とする人に対し、日常生活全般にわたって援助します。
また、介護士の仕事は大きく分けて下記の3つに分けられます。
- 身体介護
- 生活援助
- その他の支援
身体介護
介護士におけるメインの仕事でもある身体介護。
具体的には食事介助、・ 入浴介助、 排泄介助、着替え介助などがあります。「介護士」という職業を聞いて、真っ先にイメージする仕事内容なのではないでしょか。
生活援助
具体的には、食事の準備、片付け、掃除、買い物などが該当します。これらは家事代行サービスとは異なり、いずれも介護保険が適用されるサービスであるため、
日常生活に必要のない支援や利用者以外に向けたサービスは行うことができないという点には注意が必要です。
おもな仕事である「身体介護」「生活援助」を紹介しましたが、そのほかにも介護士にはさまざまな役割があります。
たとえば、
- レクリエーションの企画・運営
- 誕生会などのイベントの開催
- 看護業務の補助
- 業務日誌の作成
- 利用者とのコミュニケーション、医師や看護師への連絡
なども行います。
介護観の意味・定義
「あなたの介護観を教えてください」「どんな介護観をお持ちですか?」と面接で聞かれることも多いでしょう。しかし、そもそも「介護観」という言葉の意味を知らなかったり、何を指しているのかを明確にしていなければ、質問に対して的確に答えることはできません。
また、上記質問は単なる選考における質問だけでなく、「どんな介護職員になりたいのか」という信念を問う質問でもあります。
仕事を行ううえで、ただ漫然と業務をこなすだけではなく、自身の拠り所となる信念を持ちながら仕事を行うと、その後の伸びも大きく変わってくるのではないでしょうか。
今回の記事を機にぜひ自分なりの介護観を養えるようにしていきましょう!
介護観とは何か
まず「介護観」という言葉は一般的な言葉ではなく造語となります。
介護についてはみなさんご存じかと思いますが、高齢者や身体が不自由な方の人の行為を助けるものです。法的な意味ではないですが、一般的なイメージはみなさん大差ないと思います。そして「観」という字には様々な意味があり、「目に見える様子・眺め」や、「物の考え方・見方」という意味も含んでいます。
つまり、介護観とは「介護という物への考え方・見方」となります。
もっと言えば「介護とはこうあるべきだ」「介護とはこういうものだ」と言った介護の意義・目的・価値など全般を含んだ言葉とも言えるのではないでしょうか。
介護の基本となる「介護の三原則」
介護観という言葉を明確にしたところで、介護業界で大切な理念である「介護の三原則」を紹介したいと思います。介護職に従事するにあたり、研修等で言葉を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
介護の三原則とは、別名「高齢者福祉の三原則」「アナセンの三原則」とも呼ばれ、1952年に代表的な福祉国家であるデンマークにて提唱されました。
三原則の具体的な内容は以下となります。
- 生活の継続
- 自己決定の原則
- 残存能力の活用
生活の継続
介護される側に努めて「介護される前に過ごしていた生活」を維持させることを指します。人の生活は長年の習慣に基づいて行われることが多いです。
介護する際は、その人が従来行っていた生活様式をできるだけ尊重しようと提唱されています。裏を返せば、本人の望まない介護を行うことは原則に反していると言えます。
自己決定の原則
介護される人や高齢者自身が、生き方・過ごし方を自身で選択・決定し、周囲がその決定を尊重することを提唱しています。
介護の現場の場合、本人の意思ではなく家族の意思や介護事業者の都合が優先されることが時にはあるでしょう。しかし大切なのは本人の意思や気持ちに耳を傾け、尊重してあげることです。
残存能力の活用
自身で出来ることは最大限自身で行ってもらいながら、リハビリを行うことを提唱しています。
本人が出来ることも手助けをしてしまうと、今ある能力も低下してしまいかねません。介護事業者として色々な場面で手助けをしてあげたいと考える優しさもあるでしょうが、あくまでも「できないことをサポートする」という心構えが大切です。
介護観を持つことが大切な2つの理由
上記では介護観の定義及び介護観を見つけるにあたり大切な介護の原則について解説してきました。
では、なぜ介護業界で働くにあたり、介護観を持つことが大切になるのでしょうか?
結論としては大きく2つとなります。
- 働く理由が明確になる
- 生き方を考える理由になる
以下に解説をしていきたいと思います。
働く理由が明確になる
「介護とはこうあるべき」という一つの指針が自身の中にあると、「どのような介護をしたいのか」「なぜ介護業界で働くのか」ということが明確になります。働く中で違う考えを知ることがあるでしょうが、自身の考え方を明確にしておけば迷いなく働くことができます。
迷いなく働けるということは、自身の行う行動や言動も一貫性のあるものとなり、利用者へのサービスや日々の行動をより意味のあるものとできるのではないでしょうか。
生き方を考える理由になる
人はどうしても定年まで長い期間を働くことになるため、働くことが人生に与える影響はとても大きなものとなります。介護観を持つことは、介護を通じて「どのような生き方をしたいのか」「どのような人生を歩みたいのか」という問いと密接に関わってきます。
自身が介護業界で働くことで何を得たいのか、どのように生きていくのかということが明確になると、介護を通じて成し遂げたいことや、働き方・さらに日々の生活と介護職との関わりなどあらゆる面が見えてくるでしょう。
ほかにもある!介護観を問われる場面
介護観は以下のような場面で問われることがあります。
- 養成学校に入学するときの論文や面接
- 養成学校の授業でのレポート
- 就職するときの面接
以上の3つの場面についてそれぞれくわしく見ていきましょう。
養成学校に入学するときの論文や面接
福祉系の高等学校や専門学校に入学する際、入学希望者に対して試験が行われます。入学試験では書類選考や学科試験、面接試験などが課されることが一般的です
小論文や面接試験において「あなたの考える介護観とは何か」ということが問われることがあります。
また、専門学校では職業に直結したスキルを学ぶため、将来の仕事に対する意欲を重視します。そのため、専門学校の志望理由書では、学校で学んだ先に就く職業について、「なぜその職業に就きたいのか」「その職業に就いて将来どんなことをしたいのか」まで記すのが特徴です。
養成学校の授業でのレポート
福祉系の学校に通う学生であれば、授業の一環として「介護観」を考える機会があります。
たとえば、授業の中でさまざまな介護の概念を学んだうえで、自分なりに「介護観」を導き、論文にまとめることもあるでしょう。
また、福祉系の学校では授業の総仕上げとして、実際に特別養護老人ホームなどの介護施設で実習を行うことがほとんどです。実習を通して得た気づきや学びを「介護観」としてレポートにまとめたり、クラスメイト同士で介護観を発表し、ディスカッションするなどの機会があります。
就職するときの面接
介護士として就職する際、多くの事業所では書類選考を経て面接を実施しています。
施設での仕事内容や担当者によって質問内容はさまざまですが、共通して聞かれる定番の質問として「介護観」が挙げられます。
介護観を聞くことで、どのような介護士として働いてくれるか、施設の運営方針と合いそうかなどを採用側は見ています。ミスマッチを防ぐためにも、介護観と合わせてより具体的な行動を伝えましょう。
自分が目指している介護士像を答えることもおすすめです!
介護観の見つけ方
上記では介護観を見つけることの大切さについて解説してきました。
介護観を持つことで、生き方や働き方に与える影響はとても大きなものとなります。しかし介護観と言われても「簡単には見つからない」「理想など持っていない」「生きるために仕方なくやっている」といった側面があるのも事実です。
そこで、介護観を見つけるにはどのようにすれば良いのか、以下に解説をしていきます。
自己実現か、社会貢献かで考える
なぜ働くのかという根本的な問いに対して、「生きるため」「収入を得るため」という理由があるのは当然のことです。しかし上記の目的を達成するためであれば介護の仕事でなくても実現できます。
介護観を見つけるにあたり大切になるのは介護を通じて「自身が何者かになりたい」のか、または「誰かのために生きたい」のかを明確にすることです。
前者は自己実現と言われ、介護業務やホスピタリティ精神を体感することで、自身が「なりたい自分」というのを想像し、実現に向けて動くことで介護観を培っていくこととなります。後者は社会貢献であり、「多くの人に感謝されたい」「誰かの人生に寄り添いたい」という理由が代表的です。
いずれの理由も介護職においては追求できるものですが、探し方に迷う際はまずシンプルに2つの視点から考えてみてはいかがでしょうか。
働きながら培う
介護業界に入りたての新人や、未経験で飛び込んできた方にとって、いきなり介護観を持てと言われても難しいものかもしれません。
最初のうちは慣れないことばかりであり、日々の業務や覚えることに忙殺され、理想を描くどころではないという方もいるでしょう。しかし心配することはありません。
いずれ独り立ちし、余裕が出て業務を幅広い視点で眺められる時が来ます。余裕が出てくることで、自身のアイデアや考えも生まれ、介護観が芽生えてくることもあり得ます。
最初のうちは焦らず、業務への慣れを通じて介護における自分の「型」を確立していきましょう!
先輩社員と会話する
日頃業務で接する先輩社員との会話を通じて、介護観を確立するのも一つです。先輩社員の指導や言葉の中にも、介護に対する「自身の想い」が込めていることがあります。
また、何気ない会話の中で、先輩社員の職業倫理観や介護観について触れられることもあるでしょう。あらゆる先輩社員との機会の中に、介護観を確立するヒントが隠されていると言っても過言ではありません。
自身の経験を掘り起こす
今の自身の考え方や行動は、何かしらの過去の経験に起因しています。つまり、自身の過去の経験を掘り起こすことで、自身の判断基準やモチベーションの源泉がどこになるのかがわかるはずです。過去の経験を掘り起こすにあたっては、好きだったことや楽しかったことなどプラスの要因だけでなく、マイナス面についても目を向けていきましょう。
そして「なぜあの時こう感じたのだろう?」と問いをかけることで、自身でも気づかなかった判断の基準点や行動の源泉が見えてきます。そうした過去の振り返りから、「では未来の介護業界でこのように働く」「このように働けば楽しい」と言った介護観を見つけることに繋がるのではないでしょうか。
介護観は学ぶ・働くうえであなたの軸となる
今回は介護観の定義から、介護観の大切さや見つけ方について解説をしてきました。
ただし、上記はあくまでも一例であり、必ずしも万人に当てはまるものではありません。寝るときに着想したり、道を歩いているときにひらめくことも勿論あり得ます!
介護職は心身ともに大変ハードな仕事でもあります。自発的に見つけるのは難しいと感じる方もいるでしょう。しかし、時々は介護に対する自身の考えを整理してみてください。
もしかしたら、あらゆる場所に介護観を見つけるヒントが落ちているかもしれません。