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【傾聴と共感】バリデーション介護とは?認知症の方とコミュニケーションを取るための具体的な方法
バリデーション法は、認知症ケアの手法として効果的なコミュニケーション技術です。
この内容を理解すれば、すぐに活用できるようになりますので、ぜひ最後まで読み進めてみてください。
介護現場で活用されているバリデーションとは
介護現場で活用されているバリデーションの基礎知識を紹介します。
具体的には以下のとおりです。
- 認知症の方とコミュニケーションを取る方法
- 介護業界におけるバリデーションの目的
- バリデーションで得られる効果
介護現場におけるバリデーションを活用できるようになる前に、目的や効果を知っておきましょう。
認知症の方とコミュニケーションを取る方法
バリデーションは介護現場で活用されており、認知症の高齢者とのコミュニケーションを取る方法です。この技法は1963年にアメリカのソーシャルワーカー、ナオミ・フェイルさんによって開発され、主に認知症の診断を受けた高齢者を対象に用いられています。
高齢者の家族や介護・医療従事者の悩みや不安を解決するためのコミュニケーション技法としても利用されています。
介護業界におけるバリデーションの目的
介護業界におけるバリデーションの目的は、アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の高齢者と効果的なコミュニケーションを取ることです。
家族や介護者は認知症の高齢者とコミュニケーションを取る際、しばしば行動を落ち着かせようとします。しかしバリデーションでは、認知症によって引き起こされる言動そのものに目を向け、共感や受容の態度で接します。
バリデーションには、表情やしぐさといった非言語コミュニケーションも含まれます。「あなたを受け入れている」という姿勢を認知症の方に対して示すことも、バリデーションの考え方の一部です。
バリデーションで得られる効果
バリデーションを活用することで、対象者は「話を聞いてもらっている」と実感し、ストレスや不安が緩和され、安心感を得られます。また、認知症特有の行動・心理症状(BPSD)を和らげる効果も期待されています。
BPSDとは、認知症の高齢者がストレスや不安を抱えることで発生する症状のことで、日常生活の中で暴力や暴言が増えたり、行動意欲が低下したりします。BPSDの原因の多くは、認知症の高齢者に対する不適切なケアです。その場しのぎの対応で言動を落ち着かせようとすると、BPSDが深刻化してしまいます。
バリデーションの理論をもとに対応することで、BPSDを和らげ、高齢者の将来的な生活満足度を高めることができます。
バリデーションの基本的態度
バリデーションの基本的な態度を紹介します。
- 傾聴
- 共感
- 誘導しない
- 受容する
- 嘘をつかない・ごまかさない
バリデーションを活用する際の基本となるので、認知症高齢者と向き合う際は意識しておきましょう。
傾聴
うなずきや目線を合わせるなど、「私はあなたの話を聴いています」という態度を示します。しかし、ただ聴いているだけで、何となく話を聞き流すのではなく、相手の話を途中で遮ったり質問したりせず、まずは理解することに全力を注ぎます。
共感
相手の価値観や考え方の違いを認識し、どのような世界を見ているのかを理解しようとします。これは非常に難しいテクニックですが、話を聴くときは「相手を否定しない」と心がけるだけでも、その姿勢が伝わります。
自分の価値観で相手を説得しようとすると、共感的な態度を示せなくなるので、気をつけましょう。
誘導しない
バリデーションでは、相手を誘導しない姿勢が重要です。
例えば、認知症の方が徘徊を繰り返す際に、「歩き回らないでください」と行動を制限する声掛けは、BPSDを悪化させる可能性があります。
誘導しない発言をするためには、認知症の方の世界に参加する意識が必要です。徘徊している方がいたら、「どうしたのですか?」と寄り添った声掛けをしましょう。
自分も相手の言動の世界に入っていくことで、誘導する発言を避けることができます。
受容する
自分の考えを押し付けず、評価しないことが大切です。認知症の方の言動が理解できないと感じても、否定しないことが重要です。
ただ起きているありのままの状況を受け入れるように意識します。
嘘をつかない・ごまかさない
バリデーションでは、認知症の方に嘘をついたりごまかしたりすることが推奨されません。これは不安感や誤解を与えてしまい、BPSDの進行を促進させる可能性があるからです。
例えば、認知症の方が食事を終えた後に「お腹が空いた」と言われたら、「あとで食べましょうね」や「その前にここで少し座っていてもらってもいいですか?」とごまかすのは避けましょう。
「何が食べたいですか?」と、相手の感情に寄り添うように意識することが大切です。
言語を使用したバリデーション
バリデーションには言語と非言語を使用したテクニックがあります。
ここでは言語を使用したバリデーションの技法を5つ紹介します。
- リフレーシング
- オープンクエッション
- レミニシング
- 高齢者の好きな感覚を活用する
- 極端な表現を使用する
介護現場でぜひ活用してみてください。
リフレーシング
リフレーシングは、認知症の方の言葉を反復する技法です。例えば「部屋に誰かいる」と認知症の方が述べたら「誰かいるのですね」と繰り返します。
認知症の方は自身の発言が間違いだと気づいていることが多いのです。その発言を指摘してしまうと、攻撃的な言動を引き起こす原因になります。そのため、発言を受け入れ、リフレーシングを活用して認知症の方の言葉を反復しましょう。
オープンクエッション
認知症の方が「家に帰りたい」と述べた場合、「家ではどのようなことをされているのですか?」や「なぜ家に帰りたいのですか?」と問いかけてみてください。オープンクエスションは相手に対する関心を示すことで、安心感を提供できます。
一方、「もう少しそこに座っていてもらってもいいですか?」といった「はい」か「いいえ」でしか答えられない質問はクローズクエスションと呼ばれます。
クローズクエスションでは選択肢がなく、認知症の方が混乱する可能性があるため、推奨されません。その結果、不安感が増大し、帰宅願望や徘徊の頻度が増える可能性があります。したがって、認知症の方にはオープンクエスションを意識しましょう。
レミニシング
仕事をしていたときや家族のことなど、昔の話をしてもらうことで現在の行動に対する対策を思い出させます。例えば、認知症の方が「気分が落ち込んでいる」と述べた場合、「気分が落ち込んでいるときはどのように対処していましたか?」と質問します。
過去の体験から対策を引き出させることで、自立的な支援へとつなげていけるのがレミニシングの特徴です。
高齢者の好きな感覚を活用する
認知症の方の好きな感覚を会話内で用いて話をします。例えばお花が好きな方であれば、「このお花はいい香りですね」や「このお花が咲いている景色は綺麗ですね」と、嗅覚や視覚に訴える感覚から会話を展開します。
好きな感覚について話すことで、相手の興味を引きやすくなり、会話が活発になります。そしてその結果、高齢者も喜ぶでしょう。
極端な表現を使用する
極端な表現を使用することで、感情の表出を促します。例えば「一番嬉しかったときはいつですか?」や「一番悲しかったのはどのようなときですか?」と質問してみてください。
最高の瞬間や最悪の瞬間を思い出させることで、相手に感情的に話してもらい、信頼関係を構築しやすくなります。相手の表情に合わせて自身も極端な表情を示すことで、自分の気持ちがより伝わりやすくなるでしょう。
非言語を使用したバリデーション
非言語を使用したバリデーションを3種類紹介します。
- アイコンタクト
- タッチング
- ミラーリング
ぜひ参考にしてみてください。
アイコンタクト
アイコンタクトを通じて目線を合わせると、相手は受け入れられていると感じられるため、認知症の方に安心感を与えられるでしょう。
アイコンタクトを交わす際は真正面で向かい合うのではなく、斜めや横から行うのがおすすめです。真正面でアイコンタクトを試みると、逆に緊張感を与えてしまい、その結果逆効果になる可能性があります。
タッチング
タッチングは、優しく肩や腕を軽く触ることで親近感を与える方法です。タッチングは会話内容に合わせて行うことが重要です。
度を越えて触り続けると、逆に不信感を与えてしまうので、適度な接触を心掛けましょう。
ミラーリング
ミラーリングは、相手と同じ動作を繰り返すことで気持ちの歩調を合わせる方法です。相手が髪をかき上げたとき、同じタイミングで自身も髪をかき上げる動きを示しましょう。
リフレクティングは言葉を繰り返すのに対して、ミラーリングは動作を繰り返します。短い時間で何度も繰り返してしまうと、侮辱されていると感じられてしまう可能性があるので、ミラーリングを実践するタイミングは適度にすることが重要です。
共感や受容をして認知症の方とコミュニケーションを取りましょう
認知症の方は自身が否定されていると感じやすいため、バリデーションを活用した共感や受容の態度が大切です。ただ聞いているふりをすると「否定された」と思われ、BPSDの悪化や不安感の増大、うつ病の発症につながってしまう可能性があります。
認知症の方の生活の質を高めるためにも、今回の記事を参考にしてバリデーションのテクニックを磨き、現場で活かせるようにしてください。