【2024年度】訪問介護における介護報酬改定に関するまとめ情報

2024年度の報酬改定では、訪問介護の基本報酬が減算され話題となりました。訪問介護に勤めている方は、「給与が下がるのではないか」と不安に感じているのではないでしょうか。

今回では、訪問介護における介護報酬改定の内容を解説します。

減算された理由も説明するので、現在、施設勤務の方でも訪問介護に転職を検討している方や「訪問介護の給与が気になる」「今後の対策を知りたい」と考えている方はぜひ参考にしてみてください。

目次

【2024年版】訪問介護における介護報酬改定

2024年の訪問介護における介護報酬改定を紹介します。

基本報酬

ここでは、身体介護と生活支援、通院等乗降介助の基本報酬をそれぞれ解説します。

【身体介護】

20分未満:167単位→163単位
20分以上30分未満:250単位→ 244単位
30分以上1時間未満:396単位→387単位
1時間以上1時間30分未満:579単位→567単位
以降30分を増すごとに算定: 84単位→82単位

【生活援助】

20分以上45分未満:183単位 →179単位
45分以上:225単位→220単位
身体介護に引き続き生活援助を行った場合:67単位→65単位

【通院等乗降介助】

99単位→97単位

訪問介護の基本報酬は減算されました。それに対する意見や政府の考えは後ほど解説します。

特定事業加算の見直し

特定事業所加算は、利用者に対するサービス提供体制が充実している事業所を評価する加算制度です。

今回の報酬改定で訪問介護の特定事業加算が見直されました。

【旧加算】

特定事業所加算(Ⅰ) 所定単位数の20%
特定事業所加算(Ⅱ)所定単位数の10%
特定事業所加算(Ⅲ) 所定単位数の10%
特定事業所加算(Ⅳ) 所定単位数の5%
特定事業所加算(Ⅴ 所定単位数の3%
※特定事業所加算(Ⅲ)と(Ⅴ)のみ併せて算定可能。

【新加算】

特定事業所加算(Ⅰ)所定単位数の20%  
特定事業所加算(Ⅱ)所定単位数の10%  
特定事業所加算(Ⅲ)所定単位数の10%  
特定事業所加算(Ⅳ)所定単位数の3%  
※旧加算の(Ⅴ)
特定事業所加算(Ⅴ)所定単位数の3%
※新設

算定要件は体制要件と人材要件、重度者対応要件があり、それぞれの変更点は以下のとおりです。

【体制要件】

(1)訪問介護員等・サービス提供責任者(旧(6)から統合)ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施
(2)利用者に関する情報またはサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催
(3)利用者情報の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告
(4)健康診断等の定期的な実施
(5)緊急時等における対応方法の明示
(6)病院、診療所または訪問看護ステーションの看護師との連携により、24時間連絡できる体制を確保しており、かつ、必要に応じて訪問介護を行うことができる体制の整備、看取り期における対応方針の策定、看取りに関する職員研修の実施等
(7)通常の事業の実施地域内であって中山間地域等に居住する者に対して、継続的にサービスを提供していること
(8)利用者の心身の状況またはその家族等を取り巻く環境の変化に応じて、訪問介護事業所のサービス提供責任者等が起点となり、随時、介護支援専門員、医療関係職種等と共同し、訪問介護計画の見直しを行っていること

(6)・(7)・(8)が追加されました。
医療機関との連携による24時間体制の整備、看取りに関する取り組み、中山間地域への継続的なサービス提供、関連機関との連携による訪問介護計画の見直しが要件に追加されています。

【人材要件】

(9)訪問介護員等のうち介護福祉士の占める割合が100分の30以上、または介護福祉士、実務者研修修了者、並びに介護職員基礎研修課程修了者および1級課程修了者の占める割合が100分の50以上
(10)全てのサービス提供責任者が3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者もしくは1級課程修了者
(11)サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること
(12)訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が100分の30以上であること

人材要件は大きな変更はありません。

【重度者対応要件】

(13)利用者のうち、要介護4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の20以上
(14)看取り期の利用者への対応実績が1人以上であること(併せて体制要件(6)の要件を満たすこと)

重度者等対応要件は、「利用者のうち、要介護3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の60以上」の要件が削除となりました。

また(14)として、看取り期の利用者への対応実績が必要となっています。各加算区分の算定に必要な要件は以下のとおりです。

【加算区分】

・特定事業所加算(Ⅰ)
体制要件:(1)(2)(3)(4)(5)(6)  
人材要件:(9)(10)  
重度化等対応要件:(13または14)

・特定事業所加算(Ⅱ)  
体制要件:(1)(2)(3)(4)(5)(6)
人材要件:(9または10)
重度化等対応要件:なし

・特定事業所加算(Ⅲ)
体制要件: (1)(2)(3)(4)(5)(6)
人材要件:(11または12)
重度化等対応要件:(13または14)

・特定事業所加算(Ⅳ)  
体制要件(1)(2)(3)(4)(5)(6)
人材要件:(11または12)  
重度化等対応要件:なし

・特定事業所加算(Ⅴ)  
体制要件:(1)(2)(3)(4)(5)(7)(8)
人材要件:なし
重度化等対応要件:なし

同一建物減算の適用範囲拡大

同一建物減算とは、事業所と同一の建物や敷地内、道路を挟んだ隣接敷地のことです。

提供時間の移動距離により、報酬減算が適用されます。今回の改定で、3種類の減算区分に1つ加わり4区分となりました。

【現行の訪問介護における同一建物減算】

・事業所と同一建物に居住する利用者数が49人の場合、10%減算
・50人以上だと15%減算
・事業所から離れた場所に居住する場合、利用者数20人いると10%減算

【追加された同一建物減算の区分】

・前6ヶ月間訪問介護サービスの提供総数が同一建物等に居住する者が90%を超える場合12%減算
・全利用者が10人の場合で同じ建物に居住する利用者が9人の場合は減算対象

サービス付き高齢者住宅や隣接している地域に訪問介護ステーションを設立している場合は注意が必要です。

BCP(業務継続計画書)未実施減算

業務継続計画(BCP)とは、自然災害や火災などの緊急事態の際にどのように事業を継続するかを記載した計画書です。

令和6年以降は努力義務で未実施の場合は基準違反とされていましたが、令和7年以降では未実施の場合1%の減算となります。

高齢者虐待防止措置未実施減算

令和6年3月以前は努力義務でしたが、令和6年4月以降は未実施の場合は1%の減算です。具体的な要件は以下のとおりです。

  • 対策検討委員会の定期開催と職員への周知徹底
  • 虐待防止指針の整備
  • 虐待防止研修の定期実施
  • 虐待防止担当者配置

虐待に関する研修や担当者を配置する必要があります。

身体的拘束等の適正化の推進

訪問介護は利用者の生活空間でのサービス提供であるため、身体的拘束が想定されていませんでした。 しかし、身体拘束を行う可能性があるとの観点から、今回の報酬改定で明文化されました。 訪問介護で身体拘束が認められる場合の要件は以下のとおりです。

  • 利用者または利用者等の生命または身体を保護するため、緊急かつやむを得ない場合に限る
  • 身体的拘束等を行う場合には、理由と実施状況を記録する

運営基準に明記されるのみで、報酬減算の対象にはなりません。

認知症専門ケア加算の見直し

現行の認知症専門ケア加算は、加算区分(1)1日3単位加算区分(Ⅱ)1日4単位です。単位数の変更なく利用者の要件が見直され、具体的には以下のとおりです。

【認知症専門ケア加算の見直しポイント】

・加算区分(Ⅰ)「日常生活自立度Ⅱ以上」
・加算区分(Ⅱ)「日常生活自立度Ⅲ以上の利用者が20%以上」

以前よりも要件が広くなったので、加算が取得しやすくなりました。

口腔連携強化加算の新設

利用者の口腔状況について事業所職員が歯科医療機関やケアマネージャーと連携する場合、1ヵ月に1回に限り50単位が加算されます。

口腔連携を行う際には、利用者の個人情報が必要となるため、口腔連携加算を取得するには利用者本人の同意が必要です。

テレワーク(在宅勤務)での人員基準算定可

個人情報を適切に管理できることを前提として、テレワークの推進が明文化されました。 これにより、サービス提供責任者のテレワーク業務が実現できる可能性があります。

特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算、中山間地域に居住する者へのサービス提供加算の対象地域を明確化

離島や中山間地域にある過疎地域においては、以下の3つの加算が算定されます。

【離島や中山間地域に適用される加算】

・特別地域加算
・中山間地域等の小規模事業所加算 
・中山間地域に居住する者へのサービス提供加算

これらは、離島や中山間地域の利用者へのサービス提供や、事業所自体がその地域にある場合に算定される加算です。「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」において、過疎地域も含まれることが明文化されています。

特別地域加算の対象地域の見直し

特別地域加算の対象地域が見直されました。

特別地域加算とは、人口密度が希薄で交通が不便などの理由により、サービスの確保が著しく困難であると認められる地域に算定される加算です。

前回の改正以降、新たに加除する必要が生じた地域について、都道府県および市町村から加除の必要性等を聴取し、見直しを行います。

訪問介護の基本報酬が引き下げられた理由

訪問介護の基本報酬が引き下げられたことにより、多くの反対意見が挙がっています。

ではなぜ、国は訪問介護の基本報酬を引き下げたのでしょうか?

ここではその理由を2つ紹介します。

収支差率が高い

収支差率とは、売上金額に対する利益の割合を示す指標のことです。

収入から費用を差し引いた額を収入で割り、その結果を百分率で表して計算します。介護業界では、一般企業でいわれている「利益率」の意味で使用されます。

2022年度における訪問介護の収支差率は平均7.8%で、介護事業全体の平均2.4%と比べて訪問介護の収支差率が高かったようです。

【各サービスの収支差率】

訪問介護:+7.8%(+2.0ポイント)
訪問看護:+5.9%(−1.3ポイント)
通所介護:+1.5%(+0.8ポイント)
特定施設:+2.9%(−1.0ポイント)
小規模多機能:+3.5%(−1.1ポイント)
グループホーム+3.5%(−1.3ポイント)
特別養護老人ホーム:-1.0%(−2.2ポイント)
介護老人保健施設:-1.1%(−2.6ポイント)
参考:介護の三つ星コンシェルジュ

国は訪問介護の収支差率が+7.8%であり、全サービス平均の収支差率+2.4%を大きく上回っていると主張しています。

確かにデータを見る限り訪問介護の経営状況は安定していますが、アンケート調査は国が抽出した事業所だけが対象であり、調査項目が膨大であるため小規模事業所では回答が困難であると指摘されています。

また、この数字の中にはサービス付き高齢者向け住宅などに併設されている事業効率性の高い訪問介護事業所も含まれています。 そのため「正当に調査されたデータではない」と多くの事業所から批判の声が挙がっています。

処遇改善加算が一本化されたことによる加算率の引き上げ

国は処遇改善加算を改正したため、訪問介護の基本報酬を引き下げても問題ないと考えています。

処遇改善加算とは、介護職員の待遇向上を目指すための手当のことです。

2024年の介護報酬改定により、3つの処遇改善加算が一本化され、それにより訪問介護における加算率が引き上げられます。

【訪問介護における新加算率】

新加算Ⅰ:24.5%
新加算Ⅱ:22.4%
新加算Ⅲ:18.2%
新加算Ⅳ:14.5%

【訪問介護における旧加算率】

処遇改善加算:13.7%
特定処遇改善加算:6.3%
ベースアップ等支援加算:2.6%

過去の3加算の合計値は22.4%ですが、新加算では1つの加算が旧加算の合計値より高くなっています。 その結果、訪問介護は高い加算を受けられるため、国は基本報酬を引き下げたのです。

訪問介護事業所が介護報酬改定に対してできること

訪問介護事業所が介護報酬改定に対してできることは、未取得の加算取得です。

現在、事業所が取得できる加算は以下のとおりです。

【事業所が取得できる加算】

・処遇改善加算
・ベースアップ等支援加算
・特定処遇改善加算
・特定事業所加算
・初回加算
・緊急時訪問介護加算
・生活機能向上連携加算
・特別地域加算
・中山間地域等における小規模事業所加算
・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算
・認知症専門ケア加算

未実施の加算があれば取得できるよう準備を進めましょう。

訪問介護の基本報酬は引き下げられたため、事業所は今後の対応を検討する必要がある

通所等とは異なる訪問介護の収支差率の高さや厚生労働省が実施した介護事業経営実態調査により、訪問形態の経営状態が比較的良好であると判断されたことで基本報酬が引き下げられました。 しかし、アンケート方法には疑問・課題点があり、多くの事業所から不満の声が挙がっています。 すでに介護報酬改定は決定しているため、事業所は対策を講じる必要があります。 管理職には、未取得の加算を一覧化・取得したり、収支を安定させたりするなどの様々な制度を活用した経営努力・施行が求められます。

この記事を書いた人

山田亮太のアバター 山田亮太 介護福祉士

2016年から特別養護老人ホームに勤務。日常生活支援から身体介護を経験し、リーダー業務にも就く。2019年に介護福祉士を取得し、2020年に認知症実践者研修を修了。

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